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2009年04月09日
拾ってきた自転車 「北の国から」より
思い出していた。
あれは、父さんと母さんが別れる前だ。
その頃、ボクらの仲間のあいだでは
自転車に乗るのが流行りだしていて
ボクはとっても、自転車がとっても欲しかった。
みんなほとんど自転車を持っており
持ってない方が少なかったから
とっても肩身が狭かったんだ。
ボクは母さんに買ってって頼んだ。
「買ってあげる」って母さんは言った。
どうせ買うなら、5段ギアのついた最新型のがボクは欲しかった。
ところが、そんな話を聞いた父さんがある日
ゴミ捨て場に捨ててあった、壊れた自転車を
仕事の帰りに拾って来ちゃったんだ。
純 「イヤだよ、そんなの。ボク…」
五郎「まぁ、見てろよ。ちゃんと使えるようにしてやる」
令子「汚いわ、そんな。誰が使ってたのかわからないもの」
五郎「なに、研けば綺麗になるさ」
純 「イヤだよ、ボク、そんなの」
令子「だいたい、いいの?そんなの持って来ちゃって」
五郎「構わん、構わん。捨ててあったんだ」
結局、父さんは何日もかかって
その自転車を使えるようにしちゃった。
ボクは内心不安だったけど
それでもないよりはマシだから、その自転車を乗り回していた。
もちろん、捨ててあったのを拾ってきたなんて
誰にも言えることじゃなかった。
ところが、
蛍 「お兄ちゃん、大変、いま交番のお巡りさんが来てる」
純 「なんで?」
蛍 「あの自転車のこと」
純 「えぇ?」
警官「事情は大体わかりました。
しかし、とにかく持ち主からこういう届出があった以上は
このままにするわけにはいかないから
自転車は持ち主に返しますからね」
令子「はい、すみません、本当に。もう…」
警官「まぁ、先方も穏便に、って言ってますし
これ以上、何もないとは思いますが」
令子「本当に申し訳ございません。
全く恥ずかしいバカな事をしまして…」
警官「まぁ、これからは注意してください。
ガラクタと言えども所有者はいるんだから」
令子「あの、先方様には家の方からまた、いずれご挨拶を」
警官「ご近所だから、その方が丁寧かもしれませんな。
それじゃ、どうも」
令子「どうも本当に、お構いもしませんで」
五郎「お巡りさん、俺には…よくわからんすよ…」
警官「何が?」
令子「あなた…」
五郎「だって、これは今はこうやって綺麗になってるけど
見つかったときは、あそこのゴミの山に雨ざらしになって、もう…」
令子「ちょっと、あなた…」
五郎「錆び付いちゃってて。
あのゴミの山は大沢さん家の、すぐ前にあるゴミの山だし
この自転車は、そこにずっともう1ヶ月近くも放ってあったわけで」
令子「あなた、もういいじゃない。もう止めてよ…」
五郎「オレ、毎日見てたんすよ。
オレが見てんなら、大沢さんだって、そりぁ見てるはずだし。
あのゴミの山、古い畳とか、テレビとか、大きなゴミを置いとく場所で
そりゃ、今、『こりゃ捨てたんじゃない、置いてあったんだ』
って言われたって…」
令子「あの、すいません。ね?もういいじゃない」
警官「だから?」
五郎「だから、ですから、
捨ててあったもんを何で拾っちゃいかん…」
警官「それじゃ、もし君、これが盗難品だったら、
盗難品とは思いませんでしたか?
第一、まだ十分に使える物をですな、
不思議とも何とも思わないで持って来ちゃうとはこりゃ、
非常に悪意に解釈すればですよ、泥棒したと…」
五郎「しかし…、しかし…」
警官「何ですか?」
令子「もう、どうもすいません。もうわかったでしょ?」
五郎「しかし、東京では簡単に物を捨ててしまうから。
十分に使えるのに新しい物が出ると簡単に捨ててしまうから…」
令子「もうお願い、止めてちょうだい」
五郎「流行後れになると、すぐ捨ててしまうから
それでオレは…」
令子「もう止めてよ!止めてください!どうもすいません。みっともない…」
母さんが必死にそのあと謝って、その事件は何とかそれで治まった。
それから何日かして、母さんはボクに新しい自転車を買ってくれた。
しかもそれは5段のギア付きで
拾ってきた物とは比べものにならず
ボクはやっぱり、母さんの方が父さんよりずっとわかっていると思い…
だから、父さんは田舎っぺだと思い…
だけど…
だけど…
今、ボクには初めて少しだけ
あの時の父さんの気持ちがわかる。
何でも新しく流行を追って、次々に物を買う贅沢な東京。
流行に後れると、まだ使えるのに簡単に捨てちゃう都会の生活。
でも、ボクらが、
この半年北海道でやった生活は
明らかにそれとは違った暮らしで
ボクは何もしなかったけれど
それでもボクは少しだけ変わっており
たとえば、物が何にもなくても
何とか工夫して暮らすんだということ。
そういう父さんを少しわかったこと。
わかるようにボクが変わってきたこと。
母さん、ボク、やっぱり明日
北海道へ帰ります。
父さんと約束したからじゃありません。
裏切ることになるからじゃありません。
なぜだかわからない。
説明できない。
東京の方がいいに決まってる。
母さんのそばにもちろんいたい。
でも、
母さん、ごめんなさい。
ボクは弱い子で、母さんに会ったら
きっとまた、気が変わる。
だから会わないでまっすぐ帰ります。
母さんのことはとっても気がかりです。
だけど、
だけど今は、
北海道に、
ボク、帰ります。
(「北の国から」第14回より)
投稿者 mediaholic : 2009年04月09日 04:38